凹凸のある子は得意を優先
はじめに
こういう話題ってなかなかデリケートなお話ではありますが(そう考えるから差別につながる、と批判も受けそうですが)、個別指導の塾をやっておりますと、発達状態が定型ではないお子さんもたくさんいます。まあ「定形ってなんだ?」の話にもなりますけど。そもそも集団指導は定形発達が前提ですし、発達に凸凹のある生徒(希少型発達、と私は呼んでいます)についての「知識・経験・理解」のない教室・指導者では、個別指導であってもあまり効果が期待できないかもしれません。そういうタイプのお子さんを個別指導で何度も担当た経験や学校現場での経験から、そのあたりの事情や情報を紹介しながら、安心していただけるようなことを話せたら、と思います。
バランス型と一点集中型
最近のハウツー本には、お子さんをタイプ別に分けて「〇〇のタイプには□□な対応がベスト、△△な対応は望ましくない」というアプローチ法を紹介しているものが増えて参りました。私も「個別指導においてはお子さんによって指導者が対応を変えるべき」と考えているので、このやり方には賛成しております。そこでよく出てくるのがこの「バランス型か一点集中型か」というカテゴリーです。少し説明すると、前者は全教科全領域毎日コツコツとバランスよくやるべきと考え、何をやらせてもそこそここなせるタイプです。後者はその逆で〇〇さえやっていればいい、苦手なところが出てボロボロな成績になっても知らんふり、興味を持ったらいつでもどこでもいつまでも、というタイプです。もちろんどちらか一方に入るというわけではなく、この差はグラデーションになっていて、教科や年齢、指導者、気分などでも変わったりもします。
凹凸の激しいお子さんは一点集中型が多い印象
凹凸の激しいお子さん、不器用だなと感じるお子さんは、一点集中型が多いな、という印象です。ですが小・中学校段階では優秀と判定されるお子さんはバランス型が圧倒的に多く、親御様をはじめ指導者もバランス型に育てようと努めます。普通の子をたくさん見てきた普通の大人にとっては、優秀なバランス型のほうが把握・管理・指導がしやすいですからね。しかし、この考えが一点集中型の才能をつぶす要因の1つだとも感じます。集団指導をしていた教員時代は全く気づきませんでしたが、凹凸の激しい彼らは集中が始まると尋常ではなくなるタイプがいて、この集中はとてつもない才能の1つです。それ以外にも上手く導くと凹凸の激しいお子さんは驚くほどの才能や向上を見せてくれます。
突出した部分もあれば低い所もある
凹凸の激しいお子さんは、ある特定領域とその周辺領域の能力だけ突出した結果、そのほかの領域が低くなっている、という印象です。つまり語弊を恐れずに言うと、総合点は定形の子どもたちと同じですが得点配分が得意と不得意にすっぱり分かれている、という感じです。人類の進化の上で、そういう人間が一定数必要だから今もその遺伝子が残っている、的な学説(※)を見たことがあります。また、相田みつをさんが「トマトをキュウリに育てようとするからダメなんだ」的なことをおっしゃっているのですが、まさにこれだな~と。一点集中型や凹凸型などの希少発達型のお子さん(農産物でいうと高級なメロンとかマンゴーとか?笑)を、一般的な指導方法に当てはめる(トマトとかナスビとか?)と、うまく育たないのではないでしょうか。少し話がずれてきていますけど。
一点集中型とは話が違う部分なのですが、例えば動物の世界では耳が異常に良い個体や夜に目がよく見える個体は、敵の夜襲に備えることができ、個体として長生きできるし、集団生活する動物ならその集団では必須の能力となります。それは人間で言いますと、私たちがお猿さんの時代か、もっと以前の時代から引き継いできた才能で、実際に200年ほど前までは稀有な能力として特別視されていたようです。こういう少数派の特殊能力は重宝するので、その遺伝子は守られていきます。ですが昼間の社会の中では、耳が良すぎるせいでちょっとしたざわつきをうるさく感じ、夜に目が良い人は昼間は日光がまぶしくて外に出られない、となったりします。最近ではこういう能力を持っている人たちは生きにくい世の中になっていて、彼らをHSP(ハイセンシティブパーソン)と呼ぶのかな。本当は稀有なすごい能力なのに、「発達障害」とか「扱いにくい人」となっていることがマジで解せないと個人的に強く思う今日この頃です。ひょっとしたら誰も持っていない稀有な能力が隠れているかもしれない、というサインなのに・・・。もちろん彼らが学習能力が低いなんてことはありません。適切な環境がほかの人と異なっている、というだけです。
「みんなと同じようにやれ」は効果薄
一点集中型のお子さんがなぜ「やる気がない」「学習能力が低い(ように見える)」「学習が続かない」「すぐ忘れる」「勉強が他人事」などの症状が出るのかというと、「興味がないことには本気で行動できない」から、じゃないかと最近感じています。バランスよくできるお子さんは「これもやらなきゃ」と考えるのですが、一点集中型はそれが苦手です。「興味のないこと」には本気にもならないし、やれと言われてもやる気も起こらない。極端なことを言えば、命の危機の時ですら多分やりたくないことはやらない。するとお分かりのように、こんなお子さんに無理やり勉強させたり、親に気を使うように忖度させて勉強させたりしても結果は非常に出にくいですね。この性格は変えられるのか?と聞かれますが、おそらく多くの場合は変わらないと思います、医者じゃないので無責任なことを言うなっていう話ですけど。遺伝子に刻まれた「気質」のようなものなので、表面的には変えられても(これも非常に難しい)、学習効果は先述の「本気の時」よりも数段落ちます(加齢とともに丸くなってくる部分はあると思いますが)。すると今度はその態度に対して文句も言われ、やりたいことを抑えてますから、親御様や指導者と関係が悪化します。本人もストレスがたまります。やりたくないことをやらされて結果が散々だったとしても、その結果には本人は全く意に介さない、でも親や指導者の批判は耳に入ります(たまにそれすら入らない、無理という猛者もいます)。しかし親御様や指導者は、今後の事を考えるとやはり指示を出してしまいますね。そしてともに得るところ少なく、損は多くなります。あるいは、多少の忖度ができる子はちょっとやって少し結果を出しますが、それは本気ではありません。心も乗らないままに結果が出てしまって、周りが調子づいて期待してるだけです。こんな状態ってお子さんにとっては相当無駄な時間だな~無駄な期待だな~と思いませんか。彼らはよく「期待されるのがすごく嫌」「受けた期待に応えきれず落胆させてしまうのが嫌」と言います。こういうお子さんを連れてきて「やる気にさせて」は、方法が全くないわけではないですけど時間がかかるでしょうね。
どんな指導がありますか?
凹凸の激しいお子さん、一点集中型のお子さんには、私はまず「好きなこと」「得意なこと」を優先的に指導しています。一般的には親御様・先生方は圧倒的に「バランス型」の方が多く、それを子どもたちにもそうあるように期待・指示します。凹凸の激しいお子さんの場合はそこで溝ができてしまうので、親側・指導者側がお子さんに合わせることを提案します。もちろん集団指導が前提とされる場所ではできることは限られていますが、親御様や個別指導であれば十分対応できます。
ですのでまず最初は、時間がかかりますが、「好きなこと」「得意なこと」をお子さん自身のペースで進めて(信頼ができていれば少し負荷をかけて)、失われているであろう自信や興味を取り戻すことです。凹凸の激しいお子さんの多くも、目的(多くは合格)のためにはバランスよくやらないといけないことは頭ではわかっています(ちなみに本人はおろか親御様も学力の概要や弱点を理解してない場合は、経験豊富な個別指導者に頼んだ方が早い気がします)。ですが、それができないこと、無理にやって結果が出ないこと、さらにそのことを直接であれ暗にであれ批判されていることが続くと何もやる気がなくなります。ですから「オレは優秀」である自覚や「これは意外に楽しい」という感覚を実体験とともに持たせないと、「どうせダメ男」観が邪魔をして結果が出にくくなります。そしてこのやり方はバランス型の大人から見ると「手ぬるい」「わがままを聞きすぎ」「結果が出るのが遅い」「もうだめだこの講師(この子も)」に映ります。一点集中型や凹凸の激しいお子さんなどの希少型のお子さんの場合は、環境の方がお子さんに合わせないといけないんです。なぜなら、彼らは遺伝子レベルでも年齢的にも、環境に合わせられないから。一般論が通じないのが希少型なので、彼らに適合するやり方を準備していかなければなりません。最初は大変ですが、上手く流れ出すと爆発的に伸びていく可能性も持っています。
そして、次にお子さんとしっかりとしたコミュニケーションをとって「バランスよく得点する必要」を共通理解し、弱点科目(あるいは全くやらない領域)に手を付けていきます。もちろん学習習慣の管理もこの辺りから始めます。この時、事前に(あるいは先述の最初の指導段階で)好きなことを好きなようにやって(そう思わせて)結果が出るという経験があれば効果が出やすいですよ。そして基本的には全体を通して「常に褒める」「その長所は何につながるか具体的に説明する」、という意識を強く持って私は指導しています。
最後に
ここで私が示した方法はほんの一端にしかすぎません。お子さんはそれぞれ個性が異なるので、お子さんを見て一緒に学んでその都度アプローチを考えてそれが結果につながったのか評価する、の繰り返しが必要です。A君に合う方法がB君に合うとは限りませんし、合わないでしょう。凹凸が激しいお子さんの場合は特に個性が激しいですから、一般論なんてあってもないに等しいと考えています。そのお子さんと一緒に過ごした時間、共感した回数に応じて指導の効果が高まっていくと思います。一般論が使えないお子さんはぜひ長い目で親御様・指導者一緒に試行錯誤して才能の開花を探ってみてください。個性の強い子ほどとんでもない才能を持っていると信じています。
