環境を先に整備しすぎても

少し元気がなくなっているお子さんをお預かりしていると、そのお子さんのことを思うあまり、先回りしすぎる親御さんが結構多くいらっしゃることに気付きます。お子さんが一人っ子、〇〇中学に入れたいという目標が先に決まっている親御さん、などに多い印象です。
環境を先に整備しておくということは、語弊を恐れずにいいますと
「やる気はあとからついてくる(あとからつけるもの)もの」
「本人がやる気になってから環境を整えたのでは遅い」
「子どもの進路は親が責任を持つ(つもり)」
というような認識が見え隠れします。
さて、他人が整備した他人の庭(ここでは親の庭ですが)で
親御さんが望むような「やる気」がお子さんに湧いてくるのでしょうか?

お子さんは本当にそれを希望していますか?

 結論を先に言いますと、環境を先に整えても、ムダになる可能性が高いと思います。親の思うようには子は育たない、という話ですね。
 例えば参考書や問題集や辞書やらアイパッドやら、本棚や勉強机など、勉強道具一式がそろった環境。あるいはたくさんの塾情報を得たうえで親御様が決めた「最高の塾」や「最高の先生」。
でもお子さんは一向にやる気が起こらない。理由は簡単です。お子さん自身がやりたいと思わないからであり、同時にお子さんにやりたいと思わせるための親御さんの手段や準備が足りないからです。「ちゃんとやりなさい、こんなに準備してるんだから」的なセリフ、100%無駄ですよ。これは本当に経験則ですけどね。
 本当は、先にやるべきは「受験しようかな」という気持ちを育てるコミュニケーションだと思います。こんな時代ですから「受験させよう」となるお気持ちはわかります。でも急すぎるのはいけません。「やる気になったときのために環境を先に整備しておく」というのはお子さんからすれば「無条件にこの枠にはまりなさい」と言っているのと同じことです。お子さんは指示を素直に受け入れるタイプですか?無条件に従っても必ず得があると思わせるほどの人徳が親御さんにありますか?(私にはなかった笑)。なかなか難しいですよね。すでに親御さんの希望がおありなのでしたら(そしてそれは親御さんに覚悟と心得がある限り、悪いことではないと思っています)、心理学や教育学などを使って長期計画で親御さんも試行錯誤しながら誘導していくべきでした。

でも、うまく行くケースもありますよ

ただし、親御さんが、「やる気育成もできる指導者側(意外に少ない)」と協力体制を構築し、一緒にトライアンドエラーをしてくれる場合は、お子さんも少しずつやる気が戻ってきます。この場合、多少の時間はかかると思います。しかし「こう育ってほしい」という思いがあるのでしたら、その部分をしっかり塾側と相談し、親御さん側としてどうしたらよいのか細かく聞いてみてください。できること・できないことを色々と提案してくると思いますが、親御さんが塾の考えに納得できてなおかつ実践できる何かがあるなら、お子さん同様しっかり勉強なさってください。逆に言うと、塾に預けっぱなし、親御さんが勉強や実践を全くしない、という場合はなかなか好循環が始まりません。

ちなみに私はこんなことを親御さんに提案します

・親御さんも「やる気について」や「受験生の親のあり方」「受験体験記」「心理学」などの書籍やネット記事をたくさん読んでください。そして「うちはこういう感じにすすめようかな」を作ってください。ある程度の「こうしたら良い」「こうするのが王道」は存在しますが、ご家庭でアレンジすればいいですし、うまく行かなければ修正したり指導者に相談すればOKです。
・お子さんの勉強時間は固定し、相当なことがない限り例外を作らないでください。勉強場所も固定が良いですが、現時点では(成績が下がらなければ)個室・リビングどちらでもいいと思います。
・お子さんの勉強中は、お子さんがうらやましがる行為(テレビ・youtubeを見て大爆笑、ゲーム等)は控え、親御さんご自身の向上のための時間として努力している姿をお子さんに示してください。昼間働いて夜も勉強しろってか?とおっしゃる親御さんがいらっしゃいますが、お子さんはその状況を強制されてますよ。昼間学校で、帰宅したら塾と勉強。しかも「なぜやらなければならないのだろうか」はかなり曖昧なままで「やらされて」います。将来の為?そういう説明ではお子さんは納得していないと思いますよ。
・夕食は一緒に取る、休日は一緒に出掛ける、一緒に楽しいことをする(ゲームでも十分)等、お子さんと親御さんのコミュニケーションはしっかり取ってください。もちろん自立期に入ったお子さんは何かと話が合わないと思いますが、その場合、合わせるのは親御さんの側です。「お前はちゃんとやれ、俺は変わらないから」は一方通行の始まりです。
・お子さんをよく観察して、たくさん褒めてください。でも「無駄褒め」は見抜かれますよ。
・私の場合はお子さんの状態を逐一報告しますので、しっかりお読みになってお子さんを知る手がかりの1つとしてください。その報告の中では私は8割褒めますので、ニヤニヤして(話のネタにしながら)お子さんにお伝えください。第三者からの誉め言葉は意外に心に響きますよ。
・夫婦で受験についての共通認識を持ってください。どちらかが無責任・無関心・一方的・否定的・高圧的な状態はお子さんの勉強効果を著しく落とす可能性があります。最近流行りの「母の狂気」は「合格させるため」だけならいいと思いますが、問題はそのあとです。かなりの確率で燃え尽きますよ。お子さんが燃え尽きた場合、回復には数年はかかる印象です。大学入試に間に合うか、という所。つまり「いい中学高校に入っても、結局意味がなかった」という結果になるかもしれません。もちろん私は大反対です。お子様ではなく、お母様ご自身が狂ったように何かを頑張ればよい、とすら思っています。

お利口過ぎるお子さんの場合

愛されていると自認しているお子さんは、親御さんが先回りして環境整備をした場合、そういう期待や義務を敏感に感じ取り、自分の希望とは違う方向でも健気に頑張ろうとします。でも本心ではそれはやりたいわけではなかった場合、加齢とともにやる気がなくなり成績や結果も下がってきます。それでも「やらなければ」と自分を奮い立たせ続けていると、自己肯定感や自己決定力、自分を見つめる力、目標を自力でつかみ取る力などが下がってきます。小さな頃から嫌なことは絶対拒否する性格ならいいですが、親御さんに気遣うあまり高校生になっても本心を言えず「頑張っている振り」を10年以上するお子さんなら、親御さんが早めに手を引かないと、本来の器よりもかなり小さくまとまってしまいます。さらにもしメンタルに異常を来すと復活は難しいですよ。なんか脅してるみたいですね・・・、実際にあった話なので参考までに、のつもりです。ただこの実際にあったケースというのは、「親御さんが期待を掛けることで、親御さんがお子さんに依存している」というおかしな関係じゃないのかなと感じていました。お子さんの人生はお子さんのもの。積極的に介入して導いていく、という姿勢なら、お子さんの立場になって導いて行くことが大切です、決して押しつけではなく。

お子さんの受験適性と親御さんの養育適性

お子さんには中学・高校・大学受験にもストレス耐性やIQや勉強習慣などの「受験適性」があり、それが多くあったほうがより上位に入れます。また、どの時期の受験かというステージによって具体的な内容は変わります。例えばやる気はどの受験期にも大事ですが、素直さは年齢が高くなるとそれほど重要でなくなり、代わりにメタ認知力が重要になってきます。このような受験適性がない上に本人が嫌がっているとしたら、かなり不利な状態で戦っていることになります。
そして適性というものは何もお子さんだけではなく、親御さんにもお子さんを受験させる上での養育適性があります。お子さんの受験適性を開花させる(あるいは妨害しない)最も大きな要因・誘因は親御さんの対応の仕方だと思います。最近の研究では親御さんの子育て能力にも実は明らかな差があると結論付けているものもあり、一部には、ハイレベルな子を育てる能力を「エリート養育能力」なんて表現する専門家・研究者もいますね。彼らが言うには、この「親御さんの養育適性」「エリート養成能力」は、実は勉強すれば身につくそうです。天性の才能ではなく、後付け可能です。ご自身の育てられ方(天性の部分)をなぞるだけではご自身を少し強くした程度にしかなりませんし、兄弟数が多ければ能力が分散されますね。親御さんの養育能力については別の項で書くつもりです。

まとめ

このような意味で、「親御さんが考えるできる限り最高の環境を先に整える」という行動順序はあまり褒められたものではないでしょうね。その環境に誘導するのであれば、そこに誘導する為の綿密な計算(知識と実践とトライアンドエラー)が親御さんに必要であり、「環境さえ整えればお子さんはそこで自動的に根を下ろす」という考え方が浅はかかなと思います。
 本来なら、「学歴エリートに育ってほしい」という希望がおありなら、どうやったらそう育つのか、環境や心理面での知識をしっかり入れながらトライアンドエラーを繰り返して長期計画で進めて行くべきですよ。お子さんの嗜好や希望を考えず「この環境で育ちなさい、いつでも待ってるから」という攻め方は、自由を与えているようで、お子さんの善意を利用した囲い込みであると思います。いくら時間がないと言ってもこれはやめておいた方がいいかと思います。中学受験に間に合わなくても高校受験も大学受験もありますからね。中学受験からであれば大学受験まで6年もありますよ。充分時間はありますよ。


個別指導

Posted by tokashiki