よくバトるご家庭と養育能力
はじめに
小学校で塾通いをしている親子には、バトルになる親子がすごく多いですね。テレビや映画などでもそんなシーンが見られます。まあ、完全放置の親御さんや完全服従を強いる親御さんよりかはずっと良い(健全、といったほうがいいかな)と思うのですけどね。
中学受験は親の力(多くの場合はお母様)が非常に大きい、というのはもう周知の事実、公然の秘密です。だからこそ「親の力で受かるならなんとしてでも受からせてやりたい」と思うこと、親御様が自宅での学習をリードすることは、否定しません。多くのご家庭は実際にはそうやっていますよ。ただし、受験を前提とした親御様の「養育能力」「適性」はすべての親御様が等しくもっているというわけではありません。
お子さんも未熟、親御様も自分以外の受験指導や自宅学習指導はそんなに経験がない、となれば衝突するのは必然です。ただ、親子喧嘩をしたあとでお子さんと親御様双方からお話を聞きますと、親御さんの指示が内容もタイミングも適切か、というと・・・。
ここでは「親子喧嘩が始まる原因や解決策」等について、親御様へのお話ができたら、と思います。
親子喧嘩の黄金パターン
親子喧嘩といえばもうこのパターンじゃないですか?
①やる気が出ない、勉強しない、やるべきことをしない、成績が伸びない、など同じ過ちを繰り返すお子さんに、イライラして批判的・一方的な言葉を浴びせる親御さん。
②それに対してお子さんは反抗や無視・言い訳で返し、さらにヒートアップする親御さん。
③「だからやる気がなくなる」「もうやってられない」とつぶやいたり、指示を無視するくお子さん。
④そして①に戻る、という無限ループ。
指示か自立か
そもそも論ですが、バトル発生の原因となるのは、「親御様は指示する立場でお子さんは指示を守る立場」という考えなのかなと思います。本当は、親御様はお子さんのよろしくない点を指摘・改善する立場は当然ながら、お子さんの不満をしっかり聞くという立場、寄り添うという意識があった方がいいですね。反抗期になりますと、まず「親と話さない」という症状が出てきて、これはお手上げですけどね。この「聞く」というプロセス、そしてお子さんの不満を解消する努力を見せればバトルは減るように感じます。この「お子さんの不満を解消すること」が非常に難しい、しかし、それが養育能力の1つと思われます。
バトルの少ないご家庭は長期計画ですね
個別指導という職業柄、生徒と親御さんの双方からそれぞれの言い分を別々の場所でじっくり聞けるのですが、話を聞いていると「少し共通しているな」と感じることがあります。
強く感じるのは、バトルの多いご家庭は、受験(特に中学受験)で良い所に行かせたいと思い始めたのが最近(ここ1~2年)である、という点です。
逆にお子さんにあまり厳しく言わず、上記のようにバトらないのにうまく行っている(ように見える)ご家庭は、もっと早い段階から具体的な計画と意図、そして正確な情報収集、さらに試行錯誤のフィードバック(反省と対策、ぐらいの意味)があったように感じます。お子さんが指示を聞かないのは、その年齢以前に指示を絶対的に聞くような育て方をされておらず、親御様が身を引くタイミングやお子さんとの駆け引きの仕方を知っているから、という可能性もあります。
お子さんが生まれた時に10年分の計画を立てると、お子さんは小4になりますね。端的に言いますと、バトルの少ない親御さんは小4の頃にどうなっていてほしいか、どうなっているのが望ましいか、10年前に先に想定しておいて色々と実践していると思われます。そして10歳頃は自立が始まる時期であり、情報も友人やSNSから今以上に豊富に取れる状況にあります。よくあるケースは、生まれた時は「ただそのまま健やかに幸せに育ってくれればそれでいい」なんて思っていたのが「〇〇さん家は9歳で英検3級だって」「□□さん家は4歳で九々を覚えたって」などと聞かされると焦り始める親御さんですね。方針転換をするのは悪いことではないと思います、育児も当然試行錯誤の連続ですから。ただ、急な方向転換であったりお子さん自身がそれを望んでなかったり知識や情報が浅い・不正確な方針転換は、お子さんが少し気の毒だなぁと思ったりもします。ちなみに「10歳は、親御さんの指示を無条件で聞く限界の年齢」、と思っています。それ以後はご存知のとおり、自我や(お子さんなりの)合理的思考が出て来るしテレビやスマホから色々な情報が取れますから、本格的な口答えや拒否、無視が始まります。まあ、本当は「おめでとうございます」です。そこから自分づくりを本格的に始めるべきだし、親御さん主導の受験勉強は子ども本人からすれば他人主導の人生計画ですから、親御様が少しずつ手を放して独り歩きをしていけるように距離を取っていく時期です。ですので10歳までに口答えや学習習慣・親子喧嘩・無気力・スランプ・反抗期・学力低迷などは想定内のものとして、そうならないように、あるいはそれが少なくなるように、それを不愉快にならないように、そうなっても解決や対処方法のアイデアをいくつか準備していた、あるいは先手を打っていた、ということなんだと思います。その先手って何だ?という話ですよね。
知っているか知らないか
バトルの少ないご家庭は、親御さんがご自身の育てられ方の経験からなのか、勉強や情報収集を徹底したからなのか定かではありませんが、その「先手」を知っています。少し語弊がありますが、「学歴エリートコースにうまく乗せること」を意識して10年かけて準備してきた、と思われるケースが多いですね。小4以降にうまく行くように、9年間知識と実践とトライアンドエラーを積み重ねて来た、と言っても良いと思います。そしてこれがいわゆる「養育能力」と呼ばれる1つで、育児において先を読んでその準備をしておくというものですね。けっして「あれをやりなさい」「これはやっちゃだめ」というものではありません。子どもさんが自分からそうするように(そうしないように、ならないように)育ててきた、とも言えるでしょう。小3以前に何も準備なさらず、あるいは人づてに聞いた知識で「とりあえず習い事はやらせていたけど…」程度ですと、さあ小4でエリートコースに入れておこうとしてもその差は歴然としています。この差が「中学受験は母親で決まる」の入り口となります。
ちなみにですが、IQやストレス耐性、やりきる力(グリット)、興味を持つ力、素直さ、コミュニケーション能力、勉強習慣、基礎学力などの受験適性は、(指導者側からすると)小4から身に付けようとしても、「なかなか身につきにくい」「それらを第三者が週2~3で身に付けさせるのは時間がかかる」と感じています。養育能力の高さとは、具体的にこの辺りをご家庭でしっかり身に付けさせているか、という点になります。これがいわゆる受験勉強を始めるスタート地点と呼ばれる部分で、ご家庭での育てられ方にほぼ起因しています。ただし小4以降でもまったく身につかないわけでも、それらがないとエリートにはまず乗れないのか、と言うとそうでもありません。その後に親御さんがしっかり勉強され、指導者(集団授業でも個別指導でもその特性を十分に活かしきることができる人)と協力することで、次第にお子さんが良い方向へ変わっていくケースを多く見ます。例えば、「ただ『勉強しなさい』と言ってもムダ、なんの効果もない」ことに対して、理由付きで親御様が説明・実践できるレベル、指導者がその方法(強制や根性・気合を前面に出す指導方法)を使わずに勉強に導ける存在であれば最高です。ただし時間はかなり限られています。さらに言うと、このあたりの「中学受験の勉強を本格的に始める準備段階の能力(受験適性と大体同じ意味)」は、集団授業に入ってからではほとんど向上が見られないかなと感じます。例外は、集団授業のメリットをうまく使う授業巧者(ハイレベルクラスに配置されることが多い)と高い養育能力をお持ちの親御さんに囲まれたお子さんですね。
なぜお子さんは怒るのか
そもそも、これはしっかり考えたことってありますでしょうか?「反抗期だし」で終わってませんか(笑)。これをよくよく考えると「親御さんの考える当たり前」と「お子さんが当たり前にできること・わかること(そう思っていること)」にかなり隔たりがある、という結論になる事が多いですね。反抗の初期(小4とか)に「いやだ」「なぜやるの?」って言いませんでした?最近言わなくなったな~ということであれば、おそらく「言ってもムダ、聞いてもムダ」と思われているかもしれません。その場合はコミュニケーションが成り立たなくなっているので、まずはコミュニケーションができる状態に戻すことが先決ですね。
やはり、この時期にお子さんが怒る最も大きな理由は、未熟だからです。子どもですから合理的思考、客観的思考、大目標と小目標、長期と短期計画、やることリスト等はなかなか馴染みません(※1)。ですから、大人レベルの言葉で子どもに指示を出すと、子どもは意味や理由、背後にある目的などが理解できません。ましてやその指示が子ども自身に苦痛を与えるものであり、指示を出す人が身近な親であれば、反抗も必然ですね。こういう場合は指示の出し方・言い方を替えて配慮をしてあげてください。小6なんてまだ立派な子どもです(笑)。当然のことを言っているのに親の方が気を遣うわけ?という気持ちも分かりますが、相手も一人の人間です。その人間の能力以上のことを中学受験という名目でこちらが要求しているのです、すんなり肯定とはいかないと思います。でも反抗するだけ健全ですよ。反抗すら許さないご家庭も意外にありますからね。それを良いか悪いかはここでは話しませんけどね。
このあたりの能力に関しては、小4の時点ですでに持っているお子さんもたまにいます。しかし彼らは「自然に身についた・もともと持っていた」というよりも、親御様のかかわりの中で身についたケースが多い印象です。「それってIQの高い子が持ってる武器じゃん、普通は持ってないじゃん」とあきらめ気味の親御様もいらっしゃいますが(笑)、IQが高いからこのあたりの能力を持つというよりも、こういうの能力の有無や濃淡、その能力を使った経験の蓄積がIQの数値に影響がある、という感じですね。じゃあこういう能力は小4までに親が意図的に身に付けさせることはできるのか?という話になると思うのですが、できると思います。例えばお子さんがカブトムシが好きな場合、「山で自分でカブトムシを取る」という大目標を設定するなら、親御様とお子さんとでどのように過ごしますか?生態を調べ情報を集め実際に何度か行って4回目ぐらいにうまく行くようにセッティングすると最高ですね。それをお子さんだけに委ねますか?親御様も陰ひなたに参加しますか?この過程にはたくさんの学びがある上にその苦労は報われたという経験になりますから、その後強化されていきます。成功させるのが大切です。となると大人が介入した方がその確率はグッと上がります。部下に成功させるために上司が裏でコソコソと環境を整える、みたいなイメージでしょうかね。このような「目標→情報収集→実践→振り返り」みたいな行動パターン(いわゆるPDCAサイクルですね)を色々なところで実践していたら、受験勉強もそれを当てはめて行動できるようになります。今までの人生の色々なところでそれを実践して気持ち良かったから、受験勉強もそれでいく、という感じです。デキる彼らにとっては受験勉強だけが計画的で目的的なのではないんですね。そのために親御様は何をするの?という話ですが、そこをご自身で調べるのが養育能力の育成です。一般的には「これがいい」みたいな情報は溢れています。私もある程度は知っています。でも玉石混合な上に、うちの子に合う合わない、親御様にできるできない、適切なタイミングと順番もあります。カブトムシで言えば専門家に聞く、詳しい人を探す・協力してもらう(そしてこういう方があとで言う「親以外の信頼を置ける大人」になり得ます)、自分でもカブトムシを飼ってみる、などの方法がありますね。そしてもちろんこのことは「子どもの為に時間を割く」が絶対必要になりますし、親御様の試行錯誤の時間も必要です。もっと言えば、カブトムシでのこの成功体験をさらに違う所・違う形で経験させて「小4でこうなっておくといいな」を踏まえて養育計画を立てると理想的ですね。もちろんうまく行くとは限りません。しかしながらご自身は何も動かず、変わることを嫌い、お子さんに指示だけしても、「人間の器」という意味では、お子さんは親御様のレベル以上には育たないッス。早期教育は親御様を超える人物になることを目的としてなされるものですよね。
バトルを減らすヒント
つまり、バトルの少ないご家庭は、付け焼刃や強制を伴わない養育を長期計画で進めている(そしてその結果、親御様が「合わせる重要性」「距離感」「反抗が継続する期間」などを知っている)、と感じています。逆にお子様の受験適性(素直さ、自己肯定感、ストレス耐性、目的意識など)と親御様の養育能力(無気力にさせないアプローチ、危機感と安心感のコントロール、基礎学力や勉強習慣を身に付けさせていることなど)がともに未熟・未完成であるとき、バトルが頻発します。お子さんだけではなくて親御様も成長していかなければなりません。お金があるのでしたらその専門家にお願いしてください。また、10年20年というスパンではなく、1年2年で大きな結果を出すのであれば、親御様の覚悟(ご自身も成長するという覚悟とお子さんに妥協はしないという覚悟)は大事です。お子さんにばかり「覚悟と努力、さらに恭順」を要求するのはフェアではありません。そもそもライバルたち(養育能力が高いご家庭のこと)は、長期計画で長い間トライアンドエラーを続けて来てお子さんの受験適性も親御様の養育能力も上がっているご家庭です。そしてそれはひょっとしたら何世代も続いている「家訓」レベルとなっている可能性もあります。彼らとの勝負なら、短期勝負で参入してきた者は何かでその代替をしなければなりません。その代替とは、親御さんが勉強して内側から変わることであり、それができない場合にのみ「資金力と親の狂気」を使います。でもこの業界にいると、この2つ(資金力と親の狂気)は実は親側からするととても簡単で即効性のある、言葉が悪いですが「手抜き養育」であると感じています。本当は親御様がしっかり勉強して正しい知識と実践を重ねて成長することで、バトルを減らしてより良い将来を手に入れることできると考えております。
おまけの朗報:バトル期は続かない
お子さんが「言うことを聞かない」「いちいち口答えをする」「合理的な思考や行動ができない」時期は本当にイライラされることと思いますが、時間の経過とともにやがてそういったことも減り、バトルも減ってきますよ。「大人になる」というやつですかね。早いお子さんは半年、長くても2年といったところでしょうか(この意味ではマジな中学受験を小6から始めるとバトルが1年半続くかもしれないので手遅れになることも多いですね)。お子さんのホルモンバランスが落ち着いてきたり、どちらかが諦めたり、どちらかが論理的に言い伏せてしまったり(相手の言い分の理解・自分の意見の客観的表明ができる→要求を適切な形で表現し、指示や要望を受け入れる)、どちらかが寛容になったりしていきます。懸念されるのはコミュニケーションがなくなることですが、親御様以外に信頼のある大人で気軽に話ができる人がいらっしゃればそれもあまり心配はないかな、と思います。その「信頼のおける親以外の大人」というのは、兄弟祖父母、学校の先生、部活の顧問・コーチ、塾の先生、親戚等が担うことが多く、お子さんが「多少なりとも尊敬していること」が条件となると思います。気の利いた個別指導なら親御様が事前にそういう相談をしていれば、お子さんの状態を逐一報告する体制を取っているはずです。「こりゃ手が付けられん反抗期だわ」とお考えなら、「信頼のおける親以外の大人」に任せて、今は積極的に関わることをやめるのもありと言えばありです。もちろんその間はその方に預けっぱなしにするのではなく、ご自身もしっかり勉強すること。そして数年後に収まることを念頭に、その数年後にうまくお子さんが成長できるような種まきをしておくというのも、養育能力の高い親御様の常とう手段です。
最後に
今からバトルを減らそうとするなら、お子さんの受験適性と親御様の養育能力(特に長期的視野に基づいたグランドデザイン力)を同時に上げて行くことが理想ではあります。ただ、これは簡単なことではありません。もし親御様が勉強してトライアンドエラーをして反抗期の子どもの扱い方がなんとなく分かってきた、という頃にはお子さんは落ち着いているかもしれません。この場合、「無駄だったかも」になります。下のお子さんには適用・応用できるかも、ですけどね。そこで反抗期は「お子さんが信頼を寄せる大人」に任せて親御さんはやり過ごし、収まって来た頃に効いてくるような手をあらかじめ打っておく、というのが現実路線でしょうか。例えば、中1で今は何を言っても突っかかってくるのであれば、とりあえず1年後に落ち着くことを想定して、当面の面倒を見てもらっている「信頼のおける第三者の大人」と協力して職業別収入やメリット・デメリットの書籍を購入して親御様が勉強しておくなどが良いですかね。1年後、話が合うと思いますよ。お金の話は下品とおっしゃる方も多いですが、避けて通るわけにはいかないしモチベーション形成の大事な要素です。バトルはお互いが冷静さと合理性が欠如したときに起きることなので、親御様としては冷静さと寛容さ、さらにお子さんが受け入れられるように配慮して指摘することが大切です。でもこれはもうすでに心理学のテクニックの1つですからね。大人の側がちょっと考えるだけでバトルは減ります。お子さんはそんなに未熟ではありませんよ。自分で情報を集め分析しどうすべきかを考える時期、そしてそれらが失敗する時期を、経験者である大人側が「反抗期」と呼んでいるだけ(大人側は「私に任せればもっと短期間で目的達成できる」と考えている)で、本当は「自立期」とも言うべき大事な時期だと思っています。大人側は距離を置いて、取り返しのつかない大失敗をしない程度に、小さな失敗をしっかり見守ってあげてください。「うるせえなババァ」「狭い世界しか知らんクソ親父は黙っとけ」も、5年後に精神の疾病を患うことと比べれば小さな失敗です。口のきき方だけ叱ればそれで充分ですよ。
長々と話して「まさに乱文」となってしまいましたが、お子さん・親御様双方に、できるだけ負担の少ない受験となりますよう心より祈ってります。