「ピグマリオン効果」のすすめ
すでに才能があって結果を出している子は、第三者に預けてもそれだけで期待され愛されます。
いわゆる「ほっておいても伸びる子」ですね。指導者に期待され愛されるという事は、(指導者の質にもよりますが)さらに伸びる可能性が大きいという事です。こういうタイプの子はどんな環境においても伸びますよ。高いお金を出さなくても、遠い塾に行かなくても、(かなり外したことをしない限り)大丈夫です。
しかし、才能がありそうなのは分かるがまだ開花しきっていない子、あるいはどこに才能があるかすら見えていない子は、一般的に「普通の子」として接します。さらに言うと、授業についていけない子、やる気が全く見えない子は「期待する」どころの話ではなくなります。
ピグマリオン効果とは
世の中には「〇〇と期待される子(大人も)は本当に〇〇に育つ」という現象が存在し、心理学では「ピグマリオン効果」と呼ばれます。「特別な子(人)」として注目され期待され愛されている子は、その後もどんどん伸びていきます。すでにピグマリオン効果が出ているからですね。
逆に「普通の子」「特に期待もされていない子」と見なされている時点では、塾だろうが教室だろうが一般的には「ピグマリオン効果」は発生せず、良い方向への目覚ましいレベルアップはそのままの状態ですとなかなか起こりません。
そこで、です。
学校や塾では「普通の子」と見なされていても、ある場所では期待を一身に受けることのできることができます。
それが家庭であり、期待をするのは親御さんです。
親御さんは、他者からは「普通の子」と見なされるであろうわが子を、「特別な子」と見ることができます。それだけですでにピグマリオン効果は出ています。
じゃあ何でウチの子は成績が上がらないの?
なんて声が聞こえてきますね。よくあるケースですが、例えば「あなたはすごいから、頑張りなさい」というスタイルで声掛けを行っている場合、親御さんは「期待しているよ」というシグナルを送っている(いわゆるピグマリオン効果)と考えていますが、お子さんにとってはひょっとしたら「決めつけ」(あなたはすごい)と「強制」(だから頑張りなさい)に聞こえているかもしれません。ピグマリオン効果は、まず「褒められる・期待される」に値する根拠と本人自身もそのことを誇らしく思っているという点が大切です。すごい成長を見せた時、すごい発想を出した時、その場で褒めるのが良いとされます。「母は女優になれ」とよく言われますが、それはピグマリオン効果を大きくするため(「母は本当に自分のことをすごいと思っているくれている、すごさに気付き驚き喜んでいる」と思わせる)のテクニックの1つですね。そして「強制」はもっとも良くないと思います。本人の意志がそこにありませんからね。「お母さんが喜ぶから頑張る」と本人が思うことはまだ良いと思いますが、本人が頑張る意志を一切持たないのに「やりなさい」は、ピグマリオン効果どころではありません。かなりのマイナス効果が出ていますよ。
ピグマリオン効果の使いどころ
毎度言っておりますが、「受験のための成績」が上がるのは「勉強時間×お子さん本人の力×環境の力」と私は考えています。
親御さんは彼らにとって環境の1つではありますが、親御さんが「正しい期待」をお子さんに寄せるとしたら、その効果は勉強時間にも本人の力も向上させる効果があります。大好きな人・一目置いている人・尊敬している人に褒められたら、「もうちょっとやろうかな」「これはオレなら(私なら)できるよ」と勉強時間(練習時間)が増える可能性が高くなり勉強(練習)に向かうメンタルが向上する可能性も高くなります(ちなみに、やる気に直結する要素として「自分の向上が実感できる」というのもあります。人に「上手くなった、すごくなった」と言われるより自分で自分を評価できるようになることも大事です)。しかし根拠のない褒め方はあまりお子さん自身がそれを信じることができないので、あまり効果はありませんし、ひょっとしたら疑念に変わってしまうかもしれません。「こういう言い方をするときってだいたい何かを私に期待しているときだよね」と気づかれてしまうかもしれませんね。
大切なのは
・お子さんのありのままを受け入れると同時に、根拠があって「この子はすごいと感じている」とお子さんに気づかせること→他者から評価されることは自己肯定感や有能感につながります
・親御さんが評価する「優秀さの基準」を事前に示していること→頑張る方向が定まり褒める機会が増えます
・向上や変化に細かく気付き、それを伝え褒めること→褒める機会が増えると同時にお子さんは何がどれくらいほめられるのか理解できるようになります。
具体的にどう使うの?
個別の関係においてピグマリオン効果を発揮させる(集団に対して使うピグマリオン効果もあります)には、①すごい部分に気付いてあげる→②すごい部分(優秀さ)の根拠を挙げて褒める→③期待する(というより「わが子として誇りに思う」ぐらいのイメージですね)、という順序が理想的ですね。基本的には「褒めすぎ」はありません。一部のお子さんには根拠の乏しい褒めすぎが良くないことはあるみたいですけどね。
①気付く
そもそも、「気付くのが一番難しい」と思います。それはお子さんの前の状態を知っているか(日ごろから良く見ているか)、その年齢の子ども達のいわゆる「普通」(何を考え何ができて・・・等)を知っているか、のどちらか(あるいは両方)が必要だからです。そういう意味では保育関係や医療関係、教育関係に携わっている親御さんは有利です。私は仕事柄「子どもを見ると褒めるところを探す」のが趣味みたいになってますけどね。さらに「些細なことをわざわざ言葉にして褒める、なんてまどろっこしいことを・・・」というお考えの方も少なからずいらっしゃいます。まあ、お子さんのやる気と成績を伸ばす方法はなにもピグマリオン効果だけではないですから、無理なら無理で親御さんが実践できるほかの手法を取れば大丈夫です。
具体例
・○○って何?と質問をしてきたとき
・名言じみたことを言った時(努力は人を裏切るよね?とか笑。)
・暗算が速かったとき
・親の知らない知識を見せたとき
・お子さんの年齢と同じぐらいの時の親御さんと比べて、お子さんが高い能力や技術を見せたとき
・ただひたすら可愛い時
・これはそろそろ親を超えそう、と思った瞬間
・論理的に自分の意見を言えたとき
・行動や言動に改善が見られたとき(ただし、今回できたからと言って「今後ももちろんできるよな」的な期待は決め付けになるので注意は必要です、「親として嬉しい」ぐらいにとどめておいたほうがいいかもですね)
・素晴らしい作品を仕上げた時(勉強に限って褒めるべき、とは思わないですよ)
・模試やテストの点数が良かった時(細かいことを言うと同じ80点でも前回97点だったのか43点だったのか、平均点との兼ね合い、本人の意図・努力量・手ごたえなどにより、手放しで喜ぶと「全然分かっていない」となる可能性もあります。お子さんの情報をしっかり知っておくことと、コミュニケーションをしっかりとっておくことが必要です)
・模試やテストの内容が前回より改善が見られたとき(これは塾や教師に任せたほうがいいかもしれま せんね、でも知っていたら褒めるポイントが増えます。同時にダメ出しポイントが増えることも意味しますがそれは言わなければいいだけですし、バレないように布石を打っておけばいいかと思います)
②根拠を示し、ほめる
お子さんのすごい所に気付いて「すごいな」と伝えるだけでも効果はあります。これは有能感や自己肯定感につながりますね。ただこれだけですとやがて効果は薄くなってきます。もちろんやめたら有能感は下がってくるかもしれません。しかし、「どのようにすごいのか」「なぜ評価されるのか」まで伝えられると、これはこういう理由で世の中的にすごいと評価されることなのか、と「頑張る方向の指針」が得られます。また「褒める」という行為には「一度褒めたからあと10年もつ」、というような長期の効果はほぼありませんのでマメに評価することが大切です。
具体例
・前回と比べる(絶対評価)、順位や平均点で比べる(相対評価)
・親御さんの小さい頃と比べる
・親御さんが負けを認める(計算速いな、そんな知識知らなかった等)・・・トランプなどの遊びの中で負けを認めることはよくありますよね?「親に勝った」という事実は最初の壁を乗り越えた、という認識になりますからお子さんにとってはその領域での自信につながります。このことを応用すると、負けを勉強面(あるいは伸びて欲しい領域)で認めたら、お子さんはその領域で「おれは結構デキるんではないのか」と有能感につながります。友人に負けても親に勝っている、という事実は自信喪失をかなり遅らせます。(でも計算どおりに行かないからと言って私を責めないで下さい、また1回2回であきらめないで下さい。ちなみに負けが演技なら高校生くらいになるとバレますから、「親の威厳が」「成長に悪影響が」などはご心配なく。マジ負けならなおのこといいですね。
・名言認定する・・・『努力はたまに裏切る』と冷蔵庫に貼る。もしマウントにならないのであれば話し合ってから「努力の方向や量は大事」などの赤ペンを入れてもいいかも。
・作品を家に置く・・・検定ものの合格賞状はもちろん、学校で先生からお褒めの言葉が入った満点の答案、作成した色々なものを誉めつつ見える所に置いておくと「私はすごい」という気持ちになると思います。もしそういうものが家には一切ない、ということであればそれは親御さんの怠慢です。お子さんが「私はすごい」と思える・誇れる何かを全く手伝っていなかったことを意味します。やれと指示した・環境を整備した(と思っている)だけです。やる気にさせるには、やっぱり勝たせないと。
・お子さんの成長に驚く・・・例えば「結局ロシアがウクライナに戦争を吹っかけた本当の理由って何?」なんて小6が聞いてきたら嬉しくてひっくり返りませんか、成長のアタックチャ~ンスですよ。もちろん「親が分かっている、ある程度答えられる」という前提がありますし、お子さんがわかる言葉で説明しないとだめですよ。いきなり大人同士でやるようなレベルで説明をすると、やがて「親に聞いても分からない」となります。親御さんも勉強してください、というのはこういうことも含みます。親御さんの学歴がお子さんの学歴選択に強い影響を与える、という現象は、この辺りが分岐点です。理系が強い親御さんの下ではお子さんも理系に、という傾向ですね。でも親御さんは多くは二人いるのでどちらの影響を強く受けるかは、コミュニケーション次第・お子さんの興味関心次第、という気もします。適性は両親で判定するのが良いかと思います。
・お母様なら「女優になる」・・・私は男ですが、生徒の変化にはワーワーキャーキャー言いますよ。先日は食塩水の濃度問題で、超絶に複雑な方程式を理詰めで立式できた生徒に、演技ではなく涙が出ました。これはとても大きな成長だと感じたので、「多分、ここが分岐点になると思います」と伝えてこの立式を大きく印刷し、額縁に入れて贈りました。入会した頃と比べると算数・数学の成績が少しずつ上がってきているものの今後ドカンと行くのではないか、と思っています。同時にお母様にお渡しするときも、「指導者として期待はしていますしかなりの能力があることが見えましたが、だからと言って『優秀になるに決まっている』といった言動・態度(なんでこんな点しか取れないの?やっぱり順位は変わらんね、これで医者になれると思っているの?等)はお子さんにプレッシャーになりますからお気を付けください。ただ渡嘉敷が『この子はすごい子になる』とほめていた、とお伝えください」と言っております。
③喜びを伝え、期待する
ここで大切なのは、「決めつけ」をしないこと。親御さんからすると〇〇中学に行ってほしいとか〇〇になってほしいなどの要望が少なからずあるかと思いますが、「これで〇〇中学も合格だね」とか「これで成績急上昇間違いなしだね」といったセリフは、「期待」という成分も少しありますが、「決めつけ」「強制」の強い香りがします。お子さん本人の意志で「〇〇中学に行きたい」と強く願っているならいい言葉がけになるかもしれませんが、このあたりは親御さんが安心するための言葉でしかないかも、と思ったりもします。
具体例
・私は嬉しい、と正直に伝える・・・ただしお子さんが親御さんに強い反抗心を抱いているときはこのセリフが効果のないこともあります。
・本人の前で第三者に自慢する・・・親が自分のことを自慢している姿を見ることは、こそばゆいながらも実はうれしいと感じる子どもは多いですよ。
・第三者から褒めてもらう・・・親戚、担任、同級生のママ友などが「ちょっと聞いたんだけどさ~」的なアプローチで「すごいらしいね」と本人に言ってもらうことも効果があるみたいです。
・大勢の前で褒めてもらう・・・家族や親戚が集まった時などプレッシャーをかけない程度に。学校でも塾でもクラスで名指しで褒められるとうれしいですもんね。
・お子さんが言われてうれしい大好きなほめ言葉(IQが高い、頭がいい、回転が速い、親を抜いた、ルフィみたい、〇〇に就職できるんじゃん等)があると思いますが(それは日ごろのコミュニケーションでいくつかピックアップできればいいですね)、それを伝える。
まとめ
以上、ピグマリオン効果の気軽さ、効果の高さを説明してみました。
実際に何がピグマリオン効果なのかを知ると、意外にご家庭で実践していることが多いのではないでしょうか。すると、これは正しいやり方なのか、もうちょっと改善が必要あるいは可能ではないのか、のアイデアが出てくると思います。そういうちょっとした事の蓄積が「親御さんの養育能力」につながっていきます。ぜひいろいろと取り組んでみてください。多くの失敗もあるでしょう、でもやり直せばいいんですよ。最もよろしくないのは「どうせ私は何もできないから(塾や指導者といった)他人に丸投げ」という、謙虚と無責任を取り違えた養育態度です。お子さんの成長の最終責任者は保護者ですから、その責任感と覚悟をもって「普通のお家とは違う育て方」を実践してください。大丈夫ですよ、うまく行きますから。お子さんも幸せになれますから。