ペニシリン

自然科学では「この病気にはこの薬」というものがどんどん発見されていますよね。でも教育において「うちの子をエリートに育てるならこれ」というものがないのはなんで?とか思ったことありませんか?世の中には学力UPの為のハウツー本も山ほど出版されています。そこで、「我が子をエリートに育てるためなら〇〇という先生の本を読んだらいいよ」等はよく言われます。でもその通りにしても「うちの子は学力は上がりませんねぇ」と相談を受けたりします。そもそもその通りにするなんてムリだったりもしますね。そこでお子さんの華々しい将来を夢見るお母様お父様は、行き詰ります。

 「結核に効くのはペニシリン」は全人類に共通した真実です。まあ年齢や進行状況などで用法用量は多少違うのでしょうけれども、御幣を恐れず言えば「全人類に共通して効果てきめん」です。でも「東大に行きたければ幼少時に〇〇をする(□□塾に入れる)」などは、全日本人に共通はしておりません。東大生が幼少時に全員が公文式に通ってスポーツをして読書を好みインターナショナルスクールにいたのか?そんなわけはないッス。
 教育界は最近「科学的に」「エビデンスを」なんて言われ始めましたね、声高に騒がれ出したのはここ10~20年といったところでしょうか。ですが「結核」に対する「ペニシリン」のように、特定の1つですべてが解決する、とならないのが教育であり社会科学です。つまり、すべての子どもたちの成績を上げる唯一の特効薬「ペニシリン」は存在しません。そういうものがあると勘違いさせる本(例:「これさえやっておけば」的なもの)が多いですが、東大に入れるために、あるいはもっと大きく言えば人を育てるのに「唯一絶対的な特効薬はない」と私は考えています。1つに特定できないのは、性別や性格、親御さんの性格・知識、家庭環境、年齢等々、「個々によって異なる事情」があるからです。以前から何度も申し上げている通り「学力=学習習慣×本人の能力×環境」と考えています。つまりこれだけでも「学習習慣」「本人の能力」「環境」という3つの要素が複雑に絡み合った結果です。それぞれの要素も、いくらでも良くしたり悪くしたりできます。

そしてさらに、2つのことが言えます。まず、教育(=学力)は「ペニシリン」(=唯一の特効薬)がなくても、ほかの方法でいくらでも代替できる、ということでもあります。□□塾に入らなくても東大に行く方法はいくらでもある、ということ。「〇〇という先生がおっしゃっていることを実行しなくても、成績の上げ方はいくらでもある」、ということ。2つめは、親御様や指導者、あるいはお子さん本人が、「試行錯誤してその子に最も効果があるアプローチというものが存在する」、ということです。あえて言うなら、我が子、或いはA君だけの「ペニシリン」です。A君に効くペニシリンは親御様や個別指導者、本人が独自に作らなければならないし、常に試行錯誤が必要です。色々なハウツー本を読んで、実践してみて洗練して洗練してやっと「我が子のペニシリン」になります。そしてそれは、B君に効くとは限りません、多分効かないでしょう。「A君に効くペニシリン」は、効果を発する前提条件がものすごく複雑で繊細なものです。A君の親御様や長い時間を共に過ごしてる教育のプロはそれを準備できるようになって行きます。しかしそれをそのままB君の場合には適用できないと思います。ただ、できるところも少しあります。ハウツー本に書かれているのは我が子のペニシリンではなく、A君~Z君に平均してちょっと効いたかもしれないという内容を書いているにすぎません。平均ですから我が子にも効く可能性もあります。しかし可能性しかありませんしもっといい方法がある可能性が高いですし、ひょっとしたら効かない可能性だってあります。

お子さんを高学歴に育て上げた方の実践本や実績に秀でた指導者のハウツー本、心理学や教育学の教授の先生が執筆された理論など、「とても興味深い情報・為になる情報」は沢山あります。ですが、それを全く同じように実践したところでうまく行くのでしょうか?すべて実践できるでしょうか?本当に難しいし悩ましい。そしてどの先生も「私はこう育てました、参考にばれば幸いです」的なことをお書きになられています。偉い先生方も自分のやり方こそがペニシリンなどとは思っておりません。大雑把に言えば自然科学は一度見つけてしまえばマニュアルが存在しますが、社会科学は自然科学程の効果てきめんな唯一のマニュアルは(現在のレベルでは)存在しないのではないかと考えています。ですから、教育(社会科学)に関する知識は勉強・理解したうえで、親御様が自分なりに試行錯誤して自分の型でお子さんや生徒に対応していかなければならない、ということです。お子さんの教育に積極的なら、全ての子どもに適用できるペニシリンをさがすことはもうやめて(そもそも存在しないので)、親御様自身が我が子だけに効くペニシリンを探さないといけないのです。そうやって色々と勉強して試行錯誤して行く間に「養育能力」が上がっていきます。塾や学校に任せっきりの親御様に育てられたお子さんが100の能力を身につけるとしたら、親になってから勉強し試行錯誤を通じて高い養育能力を培った親御様に育てられたお子さんは200にも300にもなります。そしてこの「親御様の養育能力」はIQや出自などとは違い、今から向上させることが可能です。それが教育の大切なところです。唯一誰にでも効くペニシリンはないけれども、いくらでも別の方法が存在する。その、自分たち独自のやり方をお子さんに施せるかどうか、施すために努力する覚悟はあるか、という話ですね。もちろん失敗する可能性だってあります、でも次はうまく行く可能性が高くなりますよ、間違いなく。

個別指導

Posted by tokashiki